産科の主な症状と疾患
周産期専門医が専門性の高い細やかな診察を行います。
産科は、妊娠・出産に伴う母体の変化、子宮・卵巣など女性性器の異常、さらに子宮内の胎児の状態をみる診療科です。妊婦健診では、体重や血圧の測定、超音波検査、尿・血液検査、感染症検査などを通じて、母体、胎児ともに正常に経過しているかを定期的に確認します。妊娠悪阻(つわり)や、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、切迫流早産といった病態では迅速な対応が必要になります。当院での対応だけでなく、大学病院などの高次医療機関での対応が必要なことがあります。何か心配なことや症状がある時には、気軽にご相談ください。
助産師による保健指導では辛いつわりへの対処法や生活上の注意点、マタニティーブルーへの対応といった精神面のサポートも行います。
すべての妊婦さんにとってお産は、赤ちゃんを授かったという喜びを感じる一方、身体面や生活面で不安を感じるものです。当院では健康的で、少しでも不安を和らげて安心して出産を迎えられるよう、一人ひとりの妊婦さんに寄り添ったサポートを行います。
以下の方は妊娠している可能性があります。
妊娠反応が陽性だった場合
クリニックで行う検査の内容
妊娠反応陽性後のながれ
妊娠5週頃
子宮内に”胎のう”(矢印)が見えます
妊娠6、7週頃
卵黄嚢(矢印)と胎芽(三角形)
妊娠8、9週頃
胎児の頭と体がわかるようになります
小さな手、足が見えます
妊娠10週頃
胎児の横(上)と正面(下)のエコー
心拍もはっきり聞こえます
お腹の中の赤ちゃんはめざましく発育し、それに伴いお母さんの身体も大きく変化してきます。妊婦健診では胎児の発育状態を診る超音波検査とともに、妊娠週数に応じた様々な検査を行い、お母さんと赤ちゃんの健康をチェックします。
健診の際は、日常生活での疑問や不安に思うこと、食事のことなど、何でも気軽にご相談ください。
また助産師による保健指導などもおこなっています。分娩後も母乳の相談や産後健診も行っております。
ご希望の方には産後ケアセンターへのご紹介もいたします。目黒区の方は、産後ケア事業による補助が受けられます。
出生前検査は、赤ちゃんが持って生まれてくる可能性のある病気や特性を診断または推測する検査で、遺伝学的検査と形態学的検査があります。
妊娠10週~
妊娠9~10週頃に、妊婦さんから10ml程の血液を採取して行います。実は、お母さんの血液の中には、お腹の中の赤ちゃんの「DNAのかけら」ながれています。これをcf-DNA(セルフリーディーエヌエーと読みます)といいます。妊婦さんの血液中にある胎児のcf-DNAの約10%は胎盤に由来します。胎盤は受精卵からできていますので、原則として赤ちゃんと同じDNAをもっています。これを次世代シークエンサーという機械を使って、胎児の染色体について分析を行います。別名、非侵襲的出生前遺伝学的検査とか、新型出生前検査とも呼ばれている検査です。当院は日本医学会の出生前検査認証制度等運営委員会の認定を受け、東京慈恵会医科大学附属病院を基幹施設とした連携施設としてNIPTを行います。
妊娠11~13週
妊娠12から13週頃に行います。妊婦さんのお腹から超音波検査を用いて、胎児の頭、内臓、四肢、骨格などの大きな体の構造異常がないかをチェックします。胎児のダウン症などの染色体異常の可能性(確率)を調べる、超音波マーカー検査(NTや鼻骨の有無などの4つの超音波所見を見るもの)やコンバインド検査(OSCAR検査)を行う方には、同時に妊娠初期胎児ドッグも行います。
妊娠20週、30週頃
胎児スクリーニング検査とは、胎児ドッグとも呼ばれています。赤ちゃんの脳や内臓などの体の構造に加え、胎盤や臍帯といった胎児以外の部位まで、通常の妊婦健診では行わない、詳細な超音波による検査のことです。検査に20-30分程度要します。妊娠20週前後に行うものを中期胎児スクリーニング検査、妊娠30週前後に行うものを後期胎児スクリーニング検査と呼んでいます。
最近では、このように妊娠期間中2度スクリーニング検査を行う産科施設が増えています。セミオープン施設によっては、中期または後期のどちらかでセミオープン先でスクリーニング検査をする必要がある病院もあります。
妊娠初期は妊娠14週になるまでの時期です。
妊娠初期の症状はおよそ妊娠5週あたりで現れ始めます。妊娠初期では身体のだるさや熱っぽさを感じたりします。妊娠4~7週では月経が遅れる、生理前のような軽いお腹の張りがある、むかむかする、といった症状がでることがあります。妊娠8~11週では便秘気味になったり、腰が重たく感じるようになることもあります。つわりがひどくなる時期でもあります。
妊娠初期は赤ちゃんの中枢神経や心臓といった重要な器官が形成されるとても大切な時期です。この時期は葉酸を含む食物の摂取を心がけ、風疹やトキソプラズマなどの感染症に注意してください。適度に体を動かすことも大切です。また、避けたほうがよいことは、飲酒、喫煙です。一部の薬は赤ちゃんへの影響が懸念されるものがあるため注意が必要です。
赤ちゃんがお腹の中で健やかに成長できるように日常生活を送るのはもちろんですが、妊婦さんの体も不安定な時期です。できるだけ休息をとり、つわりがある時は我慢せずクリニックを受診ましょう。点滴をすることでつわりが軽快したり、お薬で症状を緩和することができます。妊婦さん一人で頑張らず、クリニックを利用してください。
妊娠22週より前に妊娠が終わってしまうことを、流産といいます。全妊娠の15%前後が流産になるといわれており、その8割以上が妊娠12週未満の早い時期に起こります。その原因で最も多いのが、赤ちゃんの染色体の異常です。これは受精した時に決まります。ですので、妊婦さんの仕事や運動などが原因で流産したということはほとんどありません。
切迫流産とは、流産が起きてしまう手前の状態のことです。お腹の中に赤ちゃんがまだいる状態で心拍も確認できます。残念ながら妊娠12週未満の切迫流産に対して有効な薬剤はないといわれています。子宮の中に血液のかたまりをみとめる絨毛膜下血種では、安静が有効との報告もあります。
妊娠初期には、軽い腹痛や少量の茶色い出血を認めることがしばしばあります。安静以外に対処法は無いのですが、ご不安な時はクリニックを受診してください。ただし、強い腹痛や生理より多い出血がある時は、子宮外妊娠や進行流産などの可能性がありますので、当院を受診するか、夜間休日であればセミオープンシステムの病院へご連絡ください。
正期産とは妊娠37週0日から妊娠41週6日までの出産のことです。これより前の出産、つまり妊娠22週0日から妊娠36週6日までの時期の出産を早産と呼びます。日本では全妊娠の5%に早産が発生し、その原因は子宮内感染であることや、原因がわからないこともあります。妊娠高血圧症候群や重い合併症をもつ妊娠の場合や、腹の赤ちゃんの状態がよくない場合などでは、母児の治療として早産とせざるを得ない病態もあります。早産で生まれると、時期によっては赤ちゃんに重篤な障害が出たり、呼吸障害や脳内出血を起こしてしまうことがあります。早産では子宮頸管という子宮の出口が短くなったり、子宮口が開いて赤ちゃんのいる袋が出たり、破水してしまうことがあります。早産ではお腹の張りや出血をみとめることが多いですが、お母さんが気づかないうちに進んでいることもあります。頻回な自覚を伴うお腹の張りや出血がある時はクリニックを受診してください。
切迫早産とは早産となる危険性が高いと考えられる状態、つまり早産の一歩手前の状態のことをいいます。子宮収縮(お腹のはりや痛み)が規則的かつ頻回におこり、子宮の出口が開き、赤ちゃんが出てきそうな状態のことです。破水が先に起きたり、同時に起きたりすることもあります。羊水が出続ければ陣痛が起きたり、細菌に感染したり、羊水の量が減ることで生後赤ちゃんに呼吸障害が起きたりすることが問題となります。切迫早産の治療では、子宮収縮を抑える子宮収縮抑制剤を内服・点滴したり、早産の原因の一つである細菌による感染の疑いがあれば、抗菌薬を使用したりすることもあります。当院では、妊娠20週前後と、妊娠30週前後の健診時に子宮頸管長を計測します。その際頸管長が十分長い場合でも、その後早産になることもあります。ですから、妊娠中は定期的な健診を受けて、早産の症状がある時はすぐにクリニックを受診し、必要な場合にはセミオープンシステムで連携している高次医療機関での診察や治療へ移行することが重要になります。切迫早産や早産の予防のためには、無理のない日常生活を心がけることが最も大切です。妊婦健診をきちんと受診して予防に努めましょう。
正常よりも低い位置(子宮口に近い側)に胎盤が付着し、子宮口を覆っている状態をいいます。子宮口を覆っていなくても胎盤の位置が低い場合を低置胎盤といいます。前置胎盤では分娩時に大量出血となるため、帝王切開術をおこないます。妊娠早期に経腟超音波検査で前置胎盤を疑われていても、妊娠週数が進み子宮が大きくなると、徐々に胎盤が子宮口から離れ、最終的に前置胎盤や低置胎盤でなくなることも少なくありません。通常は妊娠後期に診断を行います。前置胎盤を疑う方は、基本的にはセミオープンシステム連携病院での健診となります。前置胎盤の方は、妊娠中(多くは妊娠30週前後)に多めの出血を認め、緊急帝王切開術が必要になることがあります。多くの施設では妊娠37週台で帝王切開術が行われています。
また、帝王切開術の前に、自己血貯血といってご自分の血液を献血のように予め取っておいて、手術時に使用できるように準備をすることがあります。前置胎盤は心配な病態ですが、無理のない生活をこころがけ、定期健診をきちんと受け、出血を認めた際にはすぐに受診するようにしてください。
妊娠中にはじめて診断された糖代謝異常を妊娠糖尿病といいます。妊婦さんの7~9%に妊娠糖尿病が認められるといわれています。とくに肥満や糖尿病の家族歴のある方、高年妊娠、巨大児出産既往のある方などはハイリスクとされています。お母さんが妊娠糖尿病であると、お腹の赤ちゃんも高血糖になり、様々な合併症が起こり得ます。お母さんには、妊娠高血圧症候群、羊水量の異常、肩甲難産、糖尿病による網膜症・腎症およびそれらの悪化のリスクがあります。赤ちゃんには、流産、形態異常、巨大児、低血糖、多血症、電解質異常、黄疸などのリスクがあります。妊娠すると、インスリンという血糖を下げるホルモンが効きにくくなります。妊娠中期(妊娠24~28週頃)に、ブドウ糖負荷試験を行い、妊娠糖尿病のスクリーニング検査を行います。妊娠糖尿病と診断された方はまず食事療法を行います。それでも血糖のコントロールが不良な場合にはインスリン注射を用いて管理しますが、産後は多くの場合で減量あるいは中止となります。産後6-12週間後に再度糖負荷試験をうけて評価します。妊娠糖尿病と診断された方は、妊娠糖尿病ではなかった人に比べ、将来7倍の高頻度で糖尿病を発症するとの報告がありますので、産後も定期健診を受け、生活習慣の改善とその維持が必要です。また、母乳で育てると、お母さんも赤ちゃんも将来糖尿病になる頻度が減ることが知られています。できるだけ母乳栄養を心掛けてみるのもいいでしょう。
妊娠中に高血圧を発症した場合をいいます。妊娠以前から高血圧を認める場合や妊娠20週までに高血圧を認める場合を高血圧合併妊娠、妊娠20週以降に高血圧のみを発症する場合を妊娠高血圧症、高血圧と蛋白尿(肝機能障害・腎機能障害・神経障害・血液凝固障害、赤ちゃんの発育不良などを含む)を認める場合は、妊娠高血圧腎症に分類されています。
この病気は、妊婦さん約20人に1人の割合で起こるといわれており、早発型と呼ばれる妊娠34週未満で発症した場合、重症化しやすい傾向があります。重症化すると母子ともに危険な状態になることがある疾患です。妊婦健診をきちんと受診し、適切に周産期管理を行っていきましょう。
不育症は、妊娠はするものの流産や死産を繰り返してしまい結果的に子どもを持てない症状をいいます。既往流産が2回の場合は反復流産、3回以上は習慣流産ともいわれます。日本には約3万人の不育症の方がいると推定されており、決して珍しいわけではありません。
頻度の高い原因に一つには、赤ちゃん(胎児)の染色体異常があります。また、抗リン脂質抗体症候群、血液凝固異常、子宮形態異常、甲状腺異常、夫婦染色体異常なども原因として挙げられていますが、検査をしても明らかな異常がわからない方もおられます。
流産を繰り返すと、気持ちの落ち込みや不安を感じます。まずは早めに受診してご相談ください。
マタニティーブルーは、出産後の女性の30~50%が経験するといわれています。産後数日から2週間程度のうちに、涙が止まらない、イライラ、落ち込みといったちょっとした精神症状が出現します。人によっては、情緒不安定、眠れない、集中力がなくなるといった症状も出ることがあります。多くは一過性で、産後10日程度で軽快しますので、過度に心配することはありません。原因としては、急激な女性ホルモン(エストロゲン)低下など内分泌環境の変化に伴って症状が現れると考えられています。ただし、マタニティーブルーの症状が長引く場合は、産後うつ病に移行することがありますので注意が必要です。このような場合はお早めにご相談ください。
妊娠中や産後など、妊娠中の過ごし方や日常生活の注意点など、助産師によるアドバイスやサポートを行います。母乳外来では、母乳の相談やおっぱいマッサージなどを行います。詳しくは来院時にお気軽にお尋ねください。